Contents
きんとんについておさらい
和菓子の一つであるきんとん。
「栗きんとんは聞いたことあるけど……」
と、「きんとん」という言葉自体にはあまり馴染みがない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実はきんとんは奥が深い、日本人の心とも言えるお菓子なのです。
あんこを練り切り餡や求肥(ぎゅうひ)で包み、網でこしたあんこをつけた生菓子がきんとんです。
「上生菓子」とも呼ばれ、茶席などでは最上のおもてなしとして出されます。
あんこのなめらかな口どけと上質な甘さはもちろん、花や季節などをモチーフにした美しい造形は、今なお日本人の心に響く一品ともいえるでしょう。
今回は、きんとんに込められた和菓子の歴史と人の思いを読み解いていきます。
和菓子の歴史
きんとんは、もともと和菓子ではなかった
そもそもきんとんは、中国へ渡った僧が持ち帰ったといわれる、「こん飩(とん)」からきたと言われています。
これは、小麦粉をこねて刻んだ肉を包み煮込んだもの。現代でいうワンタンのようなものです。
平安時代、元日など宮中の行事に供えられた、貴重な食べ物だったとか。
そんなこん飩が、なぜ和菓子になっていったのか、解明していきましょう。
砂糖がもたらした影響
きんとんの由来を解明する前に、まずは和菓子全体について紐解いていきます。
日本における菓子の歴史は、奈良時代まで遡ります。
「菓子」はもともと「果子」を語源としており、その文字の通り果物を指していました。
その自然の食べ物に人が手を加えるようになっていき、次第に今の和菓子の原型が作られていくようになったのです。
特に、南蛮より伝来した「砂糖」。これが和菓子文化に大きな影響をもたらしました。
砂糖は8世紀ごろ、唐の僧「鑑真」によって輸入されたと言われています。
当時は大変貴重で薬として用いるのが主でしたが、17世紀ごろに国内で砂糖の製造に成功して以降、急速に広まっていきます。
この砂糖を元に、上生菓子の材料となるあんこが作られるようになったのです。
きんとんの誕生
あんことこん飩の技術を組み合わせ、きんとんが生まれました。
きんとんの特徴とも言えるそぼろ状のあんこは、ざるの目の大きさによって細くなったり太くなったりするため、それによって様々な表情に仕上がります。
中でも、きんとんをはじめとする上生菓子は相当の技術を必要とするので、「御菓子司」といわれる特別な菓子屋だけが作っていたのだとか。
このために京都では、栗きんとんはきんとんと呼ばず「茶巾(ちゃきん)」と呼ばれ、区別されています。
菓子に込められた思い
季節感あふれる造形
きんとんは、和菓子の中でも色とりどりで鮮やかな芸術美を感じさせます。
和菓子ごとにそれぞれのテーマが決まっていることもあるため、造形や色、使う材料すらも少しずつ違ってくるのですね。
それを再現するために、菓子職人は洗練された技術を用いて上生菓子を作ります。
職人の思いや技術、季節を表現する繊細さ。小さなきんとんには、その全てが込められています。
趣向を凝らした細工は、和菓子の進化の記録とも言えるかもしれません。
「菓銘」
和菓子にはご存知の通り、練り切りや羊羹、最中といった種類があります。
そしておのおのに、「菓銘」というものが付けられています。
もちろん、きんとんに菓銘を付けている和菓子屋さんもあります。
多くは和歌や花鳥風月、地域の歴史や名所などから引用して付けられ、この菓銘を知ることで味わいも一層深くなるでしょう。
そしてそこには、もてなす方から客人へのメッセージも刻まれています。
異なる技術を持つ御菓子司がそれぞれに表現しているので、食べ比べてみるのも醍醐味です。
また、生菓子と言われるように、きんとんはあまり日持ちがしないという特徴も。
季節にまつわる一品が多いため、ラインナップも日ごとに変わっていきます。
そんなきんとんや上生菓子は、まさに一期一会。
今日ある菓子は、今日限りなのです。
これは、縁を大事にするという日本人の心意気の表れかもしれません。
現代での上生菓子の進化
「和菓子って、普段あまり食べないし……」
洋菓子と違って、和菓子にはなかなか馴染みがない方も多いのでは?
けれども近年、和菓子屋さんがデパートでのタイアップを行うこともあります。
インターネットで、話題の和菓子屋さんが取り上げられることもありますよね。
和菓子は脂肪分が少なく低カロリーのため、ヘルシーなスイーツと言われています。
また、その見た目の麗しさから外国での評価も高く、近年改めて注目を集め始めているのです。
最近ではクリスマスやハロウィンなど、西洋文化にもちなんだ上生菓子も作られています。
中でもきんとんは、ほろほろとほどけるような甘さが特徴のお菓子です。
あらゆる文化と影響し合い、常に現代人の好みに合うように作られている和菓子。
和洋の枠組みにとらわれず、どんどん可能性が広がっていくでしょう。
おもてなしに思いを馳せる、静かなひと時を
きんとんは、見た目や香り、味わい、そして菓子の名称まで含めて一つの作品です。
そこには和菓子の歴史背景が詰まっていると言っても過言ではありません。
きんとん一つに、もてなしてくれる方のどのような思いが込められているのか。
江戸時代から今日にいたるまで、どのような移ろいを遂げてきたのか。
職人が趣向を凝らした、菓銘や造形、味。
みなさんもこの機会に、きんとんをじっくり五感で味わってみてはいかがでしょうか。