〜古代エジプトから現代まで~時を超えて愛され続ける刺繡の世界

 

世界各地に広がる刺繡文化

 

エジプト壁画

出典:フクイ観光ナビ

 
その起源を遡ることは不可能だといわれるほど長い歴史を持つ刺繡。
 
古代エジプトの時代にはすでに、刺繡を施した衣服が発見されており、その頃には基本のステッチが出来上がっていたことが分かります。
 
古代エジプトから古代ローマへ、そしてヨーロッパへと伝承された刺繡は、やがて中国を経て日本へと伝来しました。
 
悠久の時の流れを感じながら、各国に伝わる代表的な刺繍の特徴や、その歴史を少しだけ紐解いてみましょう♪
 

古代エジプトからヨーロッパへ

 

オートクチュール刺繡

出典:じぶんデザイン手帖

 
古代エジプトから伝承された刺繡の装飾は、ローマでさらなる発展を遂げます。
 
そして世界各国で織物貿易が盛んに行われる中で、そのアイデアや技術もヨーロッパ各地に波及。
 
中世のヨーロッパは教会刺繡の中心であり、聖職者の衣には地位が上の者ほど豪華な刺繡が施されています。
 
この時代の刺繡には、信仰を明確化し、神を賛美する意味合いがありました。
 
 
フランス王宮

出典:LOUIS QUATORZE

 
また一方で、刺繍は王宮内の王族や貴族たちにも愛され、社交界を絢爛豪華に彩ってきました。
 
宗教や特権階級の中で発展した刺繍は、元々は贅沢な美術品であり、身分の高さを表すシンボルでもあったのです。
 
 
貴族衣装

出典:編み編み生活

 
その後、美術品としての文化は衰退し、誰もが気軽に楽しむことができる手芸に様変わり。
 
民族衣装に施された美しい手刺繡は、それぞれの民族が持つ自然観や願いを散りばめた独自の刺繡文化として、現代まで受け継がれています。
 
 
ポーランド民族衣装

出典:Brideal

インドから中国へ

 

皇帝服

出典:sumally

 
一方、約3,000年の歴史を誇るのは中国刺繡。
 
金や銀の糸を使ったきらびやかな刺繡はインドから始まり、中国へと伝わりました。
 
刺繡が施された服はいわば地位の象徴。
 
皇帝の服には龍、官吏の服にも階級によって麒麟、虎、鶴などの様々な紋様や動物が刺繡されました。
 
その技術は舞台衣装や工芸品へと受け継がれ、やがて「中国四大刺繡」と呼ばれる中国独自の刺繡文化へと発展したのです。
 

蘇繡(そしゅう)

 

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蘇繡は両面刺繡で、裏表どちらから見ても糸の結び目がなく、両側から見ることができるのが特徴。
 
1本の絹の刺繡糸をさらに30本ほどに分けて使用し、100種類以上の色で紡ぎだされる作品は「東方の真珠」と呼ばれ、その名は世界的にも有名です。
 

粤繡(えつしゅう)

 

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粤繡は「広繡」とも呼ばれ、その中でも代表的なものが汕頭(すわとう)刺繡。
 
特徴は、吸水性のいい綿や麻の生地に刺繡をしていること。
 
ヨーロッパの感性と中国古来の技法とが融合し、その上品で洗練されたデザインは今も世界中で愛され続けています。
 

湘繡(しょうしゅう)

 

虎刺繡

出典:CITS 中国国旅

 
生き生きとした絵柄と強い質感が特長の湘繡は、複雑な運針法から「針の上のバレエ」と呼ばれることも。
 
特に獅子や虎の刺繡は絶品とされ、毛の文様が力強く立っていて、目はらんらんと輝き、本物と見間違うような迫力で見るものを圧倒します。
 

蜀繡(しょくしゅう)

 

蜀繡鳥刺繡

出典:神博文化

 
蜀繡は「川繡」とも呼ばれ、光、色、形を重視して細やかに表現された草花や動物たちが有名。
 
まるで絵画や写真のように写実的で、思わずため息が漏れるほどの美しさです。
 

中国から日本へ

 

天寿国曼荼羅繡帳

出典:法隆寺・御朱印

 
日本刺繡の起源は、5世紀頃にインドから中国に伝えられた「繡仏(しゅうぶつ)」です。
 
繡仏とは、仏像を刺繡で表現する技法で、推古天皇の時代に数多く作られるようになりました。
 
奈良県の中宮寺に保管されている「天寿国曼荼羅繡帳(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)」は、現存する最古の繡仏。
 
推古天皇が聖徳太子の死去を悼んで、女官たちに製作させたものだと伝えられています。
 
 
また「刺繡の神さま」と呼ばれているのが、遣唐使として中国に派遣されていた吉備真備(きびのまきび)。
 
吉備真備

出典:K·Inoue 刺繡教室

 
彼は多くの刺繡作品を唐から持ち帰り、京繡(きょうしゅう)という日本刺繡のいしずえを築きました。
 
日本刺繡の特徴は、撚り(より)がかかっていない絹糸を使用すること。
 
撚りの強弱によって光の反射を調節することで、繊細な表現が生み出されるのですね。
 

京繡(きょうぬい)

 

京繡 牡丹

出典:京都の伝統産業

 
京繡は、京都府京都市周辺で作られている刺繡。
 
平安建都の際に、京都に刺繡の職人をかかえる織部司(おりべのつかさ)という部門が設置され、衣服の装飾を縫い始めたのが起源とされています。
 

加賀繡(かがぬい)

 

加賀繡

出典:貴楽貴楽(キラキラ)の歩み

 
石川県金沢市を中心とした刺繡が、加賀繡。
 
室町時代初期に仏教の布教とともに、仏前の打敷(うちしき)や僧侶の袈裟など、仏の荘厳(しょうごん)飾りとして京都から伝えられた手刺繡の技法です。
 

江戸繡(えどぬい)

 

江戸刺繡「賀茂之競馬図」

出典:石黒陽子のらくらく江戸刺繡

 
安土・桃山時代からの古い歴史を持つ江戸繡。
 
江戸時代の中期に台頭してきた町人階級が、あらゆる染色技術に刺繍を加えて絢爛豪華な着物を次々と生み出したことから始まりました。
 

より自由な表現へ

 


 
現代の刺繡は、高貴な美術品や伝統工芸としてではなく、より身近に、そして手軽に楽しむことができる趣味の一つとして、人々に親しまれています。
 
刺繡が写真とコラボレーションした作品が話題になるなど、アートの現場でもその可能性は広がり続けています。
 
時代を越え、国境を越えて愛され続ける刺繡の世界。
 
たまには歴史に思いを馳せながら、様々な刺繡の作品に触れてみてはいかがでしょうか。