恋の病の特効薬?マジパンの歴史を訪ねて

 

マジパンは特別な日のお菓子

 


 
日本ではお菓子のデコレーションとして人気が高いマジパン。
 
色鮮やかで可愛らしいマジパン細工は、イベントに彩りを添えて、特別な一日を盛り上げてくれます。
 
けれどもそのねっとりとした甘さから、食べて楽しむお菓子としては、あまり馴染みがありませんね。
 
滋養に満ちたアーモンドと砂糖から作られるマジパンは、昔の人にとっては病を癒す薬でもありました。
 
現在でもヨーロッパ各地では、お祝い事や季節の行事には欠かせない特別な食べ物。
 
そんなマジパンには、一体どのような歴史があるのでしょうか。各地に伝わるエピソードをご紹介していきます。
 

マジパンの起源

 


 
マジパンの歴史は非常に古く、紀元前後には主食として食べられていたといわれます。
 
中世になると、アーモンドと砂糖が手に入りやすくなった中東で、現代のマジパンに近い食べ物が誕生。
 
10世紀のアッバース朝時代には、アーモンドの粉とシロップを煮詰め、色々な形に成形したロージナージュ・ヤビースというお菓子があったと記されています。
 
「マジパン」という言葉の語源は、十字軍遠征時代の銀貨に刻まれていた、アラビア語の「Mauthaban(マウタバン)」。
 
のちに東地中海沿岸では、高価な医薬品を入れる木箱が「マウタバン」と呼ばれるようになります。
 


 
やがてその箱には、アーモンドと砂糖とローズウォーターで作ったお菓子が入れられるようになり、「マウタバン」はお菓子自体の呼び名へと変化しました。
 
ちなみにスペインでは「マサパン」、ドイツでは「マルツィパン」、イタリアでは「マルツァパーネ」。
 
日本の「マジパン」という呼び名は、英語の「マージパン (marzipan)」から由来しています。
 
ドイツでは18世紀まで、薬として売られていたというマジパン。
 
時の流れとともにヨーロッパ各地に伝来し、その土地ならではの姿に形を変えて、人々に親しまれるようになっていきます。
 

ドイツ『リューベックマジパン』

 


 
ドイツの北、世界遺産の街リューベックはマジパンの町としても知られています。
 
ここで作られたものだけが「リューベックマジパン」と名乗ることができると、ドイツ国内で法令化されたほど。
 
砂糖の比率がアーモンドの30%以下であることや、ローズウォーター以外の香料の使用を禁止するなど、原料も厳格に決められているのです。
 
リューベックでマジパンが作られるようになったのは、1407年に深刻な食糧難に陥ったことがきっかけでした。
 


 
当時、市の倉庫に残っていたのはアーモンドと砂糖だけ。
 
そこで市の参事会は「この2つの材料でパンを作った者に褒美を与える」と呼びかけました。
 
すると一人のパン職人が、アーモンドの粉と砂糖を練ってパンの形に整えたことが、リューベックマジパンの起源。
 
人々に配られた日が、聖マルコの日であったことから「Marci Panis(マルコのパン)」が語源となり、「Marzipan」として現代に伝えられています。
 

イタリア『フルッタマルトラーナ』

 


 
イタリア半島の西南、地中海のほぼ中央に位置するシチリア島。
 
アーモンドの産地としても知られるこの島では、10月から11月になると、色鮮やかな小ぶりのフルーツがお菓子屋さんの店頭に並びます。
 
その正体は「フルッタマルトラーナ」と呼ばれる、シチリアの伝統的なマジパン菓子。
 
元々はパレルモにあったマルトラーナ修道院で、教会のお供え物として作られたことが始まりでした。
 


 
その後は11月2日の「死者の日」に食べるお菓子として、イタリア全土に広がります。
 
「死者の日」とは、日本でいうとお盆のようなもの。
 
その日になると、お子さんがいるご家庭ではフルッタマルトラーナを家中に隠し、宝探しのようにして楽しみます。
 
お菓子を見つけたときには「亡くなったご先祖様がくれたものだよ」と教えるのだそう。
 
そのようにして毎年、亡くなった親族を偲び、お墓参りをする風習が残されています。

 

タリン『恋の病を癒す薬』

 


 
旧市街地全体が世界遺産に登録されている、エストニアの首都タリン。
 
まるでおとぎの国に迷い込んだかのような街並みの一角に、ヨーロッパ最古の薬局「市議会薬局」があります。
 
588年の歴史を持つこの薬局では、中世には蛇の皮や、ユニコーンの角の粉なども薬として売られていたという噂も。
 
そして現在もここで扱われている、門外不出の秘薬として有名なのが「恋の病を癒す薬」。
 


 
一見マジパンのように見えるこの薬は、中世から伝わる特別な製法により作られています。
 
材料の72%はアーモンドで、残る28%の成分は秘密なのだとか。
 
何世紀にも渡り、恋に悩む人々を癒し続けてきた魔法の薬。
 
今もなお、恋する心の痛みを抱え、この秘薬を求めて訪れる患者は後を絶たないそうです。
 

歴史に思いを馳せて

 


 
長い歴史を辿って様々に形を変え、今も各地で愛され続けているマジパン。
 
デコレーションとして楽しむだけでは、もったいない気がしてしまいますね。
 
歴史に思いを馳せながら、ぜひご自身の新たなマジパンレシピを創造してみてください。